ベニバナの花

レモンイエローの黄色

ベニバナ黄色素は、キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius)の花弁に含まれるフラボノイド系色素であり、古くから布の染色や食品に用いられてきた黄色の色素です。同じく水溶性のクチナシ黄色素と共によく使われています。

1. 色素の概要と化学構造

  • 起源:ベニバナ(紅花、Carthamus tinctorius L.)
  • 主要成分:サフラワーイエロー

ベニバナは、一般的にナイル川流域(エジプト原産)とされており、古代エジプトでは化粧料・染料として利用されていた記録があります。また、考古学的にはメソポタミアや「肥沃な三日月地帯(Fertile Crescent)」で4,000 年以上前から栽培されていた可能性が指摘されています。そこから中東を経て、シルクロードを通じて中国・中央アジアへ伝搬。さらに朝鮮半島を通じて日本にも入り込んだと考えられています。日本へは “慈覚大師(円仁)が東北地方で縁起を結んだという伝承” もあり、平安期以前の導入が想定されています。

日本では「末摘花(すえつむはな)」という異称があり、これは「茎の末(先端)に咲いた花を摘む花」という意味で、ベニバナの花の付き方を表現しています。 当時の和歌・古典歌謡にも「すえつむ花」「紅花(べにばな)」という表現で登場しています。用途として、乾燥・水洗いして黄色素・紅色色素を取り出したものが生薬「紅花(コウカ)」として利用され、婦人病や血行促進、更年期障害の緩和など漢方領域でも歴史があります。これは日本でも古くから行われていた利用形態と重なります。また種子は「サフラワー油(safflower oil)」の原料としても重要で、世界中に栽培が広がった背景のひとつであるとも言われています。

日本では、山形県(特に旧最上・村山地域)でのベニバナ栽培が非常に盛んで、「最上ベニバナ」としてブランド化されてきました。江戸期には、上記地域で生産されたベニバナが河川・海運ルートを通じて京・大阪の西陣織や化粧品原料として輸送され、非常に高価な商品となった歴史があります。20世紀以降、化学染料の台頭によりベニバナ染料用途の衰退がありましたが、近年「天然染料」「地場産業の再生」として、再評価の動きがあります。

サフロミン(Safflomin)は、ベニバナ黄色素の主色素成分で、カルコン型フラボノイドの骨格に複数の糖が結合した物質で、構造の違いによりサフロミンAとサフロミンBがあります。糖がついている配糖体であるため水溶性が高く、また糖鎖の種類や結合位置の違いによって色調が淡黄色〜レモンイエローである特徴があります。

2. 技術的特性と応用

  • 発色域:黄色〜暗褐色
  • 溶解性:水溶性、極性アルコールに可溶、油脂に不溶
  • 熱安定性:△あまり強くない
  • 光安定性:○普通
  • 金属との相互作用:若干あり
  • 用途
    •  漬物(たくあん、浅漬けなど)
    •  菓子類(ゼリー、キャンディ、グミ、焼き菓子など)
    •  飲料(清涼飲料水、スポーツドリンク、ゼリー飲料など)
    •  乳製品(ヨーグルト、フィリング、ムースなど)
    •  和菓子(寒天菓子、求肥、練りきりなど)
  • その他
    •  ベニバナ黄色素とクチナシ黄色素は、どちらも天然由来の黄色系色素ですが、性質の違いから用途に応じて使い分けられます。ベニバナ黄色素は水に溶けやすく透明感のある淡いレモンイエローを示すため、清涼飲料やゼリーなど透明度の高い製品に向いています。一方、クチナシ黄色素は鮮やかで濃い黄色~オレンジ色を出せるため、焼き菓子や漬物、加熱加工品で安定した着色が可能です。したがって、淡く透明な色を求める場合はベニバナを、高温加工や濃い黄色を必要とする場合はクチナシを選ぶのが一般的です。

3. 法規制と表示

  • 日本:既存添加物
    • 表示例:ベニバナ黄色素、カーサマス黄色素、紅花色素、フラボノイド色素、着色料(紅花黄)、着色料(フラボノイド)
    • 使用制限:以下の食品には使用できません。こんぶ類、食肉、豆類、野菜類、わかめ類(加工品は除く)、鮮魚介類(鯨肉を除く)、茶、のり類
  • INS番号:なし
  • EU:なし
  • 米国:なし
  • 中国・韓国:食品添加物(栄養強化剤、天然色素)

海外では各国の着色料規制により使える食品や添加量が決められている場合が多いため、ここに記載があっても使えないことがあります。

参考文献:
Li, P., et al. (2018). "Advances in safflower pigments: Extraction, stability, and applications." Food Reviews International, 34(2), 179–194(2018).
● Zhihua W. et.al., "Current advances of Carthamus tinctorius L.: a review of its application and molecular regulation of flavonoid biosynthesis", Medicinal Plant Biology, 3, e004 (2024)
● 熊澤敏弘、"ベニバナの色素成分に関する研究", 山形大学工学部学位論文(1996)



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