イチゴ色の色素
ビートレッド(アカビート色素)の原料となるビートは地中海沿岸原産で、古代ローマ時代には発熱や便秘の治療に薬用として用いられていました。外見はカブやダイコンに似ますが、アブラナ科ではなくヒユ科に属します。以前はアカザ科に分類されていましたが、現在はヒユ科に統合され、ホウレンソウやオカヒジキなども同科に含まれます。
ビートには多くの品種があり、葉や根を利用するものがあります。根を利用する赤色のテーブルビートは、耐寒性が高く冷涼な気候を好むため18世紀にはヨーロッパ全土に広まりました。ボルシチやピクルス、ワインの着色などに使われ、欧米では広く親しまれています。現在、アメリカやEU、中国で着色料として使われています。日本でも最近、健康食品素材としての赤ビートが注目されてきましたが、実は北海道では昔から、同属である甜菜(てんさい)が砂糖生産用に大規模に栽培されています。
1. 概要と化学構造
- 起源:ビート(Beta vulgaris L)の根
- 主成分:ベタレイン系色素(イソベタニン及びベタニン)
形はよく似ており、おなじ赤色を呈していますが、ビートレッドの赤色の成分はカブやダイコンに含まれるアントシアニンではなく、ベタニンやイソベタニンといったベタレイン系の色素です。これらはベンゼン環とピロール環が縮合した構造を持つ芳香族インドール誘導体で、アントシアニンのようにpHによる変色は見られません。
ベタレイン系色素はサボテンやアマランサスにも含まれますが、日本で食品添加物として認可されているのはビートレッドのみです。なお、興味深いことにアントシアニンを持つ植物とベタレイン系色素を持つ植物は互いに排他的で、両者を併せ持つ植物はないといわれています。
2. 特徴及び用途
- 発色域:赤~暗赤色
- 溶解性:水溶性、極性アルコールに可溶、油脂に不溶
- 熱安定性:弱い
- 光安定性:あまり強くありません
- 金属との相互作用:なし
- 用途
- 菓子類(チョコレート、洋生菓子)
- 乳製品(ヨーグルト、フィリング)や冷菓(アイス、氷菓)
- 飲料(果汁飲料、炭酸飲料、スポーツドリンク)
- その他
- ビートレッドはアントシアニン系色素よりもピンクの色調が強く、イチゴをイメージした食品によく使われます。
- ビートレッドはアントシアニン系色素よりも耐熱性が弱く、退色してしまう特徴があります。しかしながら、それを逆手に取り、プラントミートなど代替え肉の着色で使われることがあります。(つまり、プラントミートは非加熱の状態では生肉に近い色合いであるのに対して、加熱するとビートレッドは退色して焼いた肉のような色合いになるという特徴を利用)
3. 法規制
- 日本:既存添加物
- 表示名称例:ビートレッド、アカビート色素、アカビート、野菜色素
- 使用制限:以下の食品には使用できません。こんぶ類、食肉、豆類、野菜類、わかめ類(加工品は除く)、鮮魚介類(鯨肉を除く)、茶、のり類
- INS番号:162 Beet Red
- EU:E162 Beet Red
海外では各国の着色料規制により使える食品や添加量が決められている場合が多いため、ここに記載があっても使えないことがあります。
参考文献:
● https://www.foodnavigator.com/Article/2020/03/03/Naturex-introduces-red-colouring-for-meat-substitutes
● Azeredo, Henriette M.C., "Betalains: properties, sources, applications, and stability – a review", Int J, Food Sci Tech.,44(12), p2365-2376(2009)
● Calva-Estrada S.J. et.al., "Betalains and their applications in food: The current state of processing, stability and future opportunities in the industry", Food Chemistry, 4,100089(2022)

