キムチの色
トウガラシ色素は、トウガラシ属植物の果実から得られる天然の赤橙色カロテノイドです。辛味成分を除いた抽出物が食品用着色料として利用され、キムチの着色のほか、シーズニングやスナック菓子、チーズなどの油脂を含む食品に使われています。
1. 色素の概要と化学構造
- 起源:トウガラシ(Capsicum annuum、C. frutescensなど)果実
- 主成分:
- カロテノイドの一種であるカプサンチン類
トウガラシ(Capsicum属)の起源は中南米、特にメキシコやボリビア周辺が原産地とされ、約6,000年前から人類によって栽培されていたと考えられています。
大航海時代(15〜16世紀)にコロンブスがアメリカ大陸からヨーロッパへ持ち帰り、トウガラシはスペイン・ポルトガルを経て世界各地へ広がりました。ヨーロッパでは辛味の少ない品種が選抜され、ハンガリーやスペインで「パプリカ」として発展しました。
日本には16世紀末〜17世紀初頭に伝わり、江戸時代には観賞用としても栽培されました。現在、辛味の強弱や果実色の違いから多様な品種が開発されています。
色素の主成分であるカプサンチン(capsanthin)はカロテノイドの中でもキサントフィル系に属する化合物で、分子式はC₄₀H₅₆O₃です。構造的には長いポリエン鎖(11個以上の共役二重結合)を持ち、この共役系が可視光の青緑領域を吸収することで赤橙色を示します。
2. 特徴及び用途
- 色調:橙~赤褐色
- 溶解性:脂溶性、水に不溶
- 熱安定性:高い
- 光安定性:比較的弱い
- 金属との相互作用:なし
- 用途
- 肉製品(ソーセージ、ハム、ベーコンなど)
- 乳製品(チーズ、マーガリンなど)
- 調味料・ソース類(カップ麺スープ、カレー、ドレッシングなど)
- スナック菓子(ポテトチップス、スナック菓子、せんべいなど)
- トマト系食品、キムチ(補色として利用)
- その他
- トウガラシ色素は、天然色素の中でも国際的に広く知られ、多くの国で使用が認められている着色料であるため、各国で取引・使用される過程で独自の規格が整備され、色価に加えてCV、SCU、CUなどの単位で濃度を表されることがあります。これらはもともと貿易取引用に設けられた基準であり、EOAやASTAなどの表示法も存在しますが、現在は国際的にMSD-10法が主に用いられています。この方法では従来の色価との換算が可能で、CV=1が色価(E10%cm)の1/66に相当し、例えば色価1,515の製品ではCV値が10,000となります。
3. 法規制と表示
- 日本:既存添加物
- 表示名称例:トウガラシ色素、パプリカ色素、カプシカム色素、カロチノイド色素、カロテノイド色素、着色料(カロチノイド)、着色料(カロテノイド)
- 使用制限:以下の食品には使用できません。こんぶ類、食肉、豆類、野菜類、わかめ類(加工品は除く)、鮮魚介類(鯨肉を除く)、茶、のり類
- INS番号:160c(i) Paprika oleoresin 160c(ii) Paprika extract
- EU:E160c Paprika extract, capsanthin, capsorubin
- 米国:21CFR 73.340 Paprika, 21CFR 73.345 Paprika oleolesin
INS番号160cはトウガラシ由来の色素を示しますが、更に細分化して(i) Paprika oleoresin と (ii) Paprika extract があります。両者の違いは、製法・成分濃度・物性にあります。
E160c(i) – Paprika Oleoresin(パプリカオレオレジン)
製法:トウガラシ果実を油脂または有機溶媒で抽出、高濃度
特徴:油脂に良く溶け、油脂系食品に適する。
E160c(ii) – Paprika Extract(パプリカ抽出物)
製法:トウガラシ果実を水・アルコール・有機溶媒などで抽出
特徴:(i)より水系への分散性や配合の自由度は高い、粉末としても扱いやすい
海外では各国の着色料規制により使える食品や添加量が決められている場合が多いため、ここに記載があっても使えないことがあります。
参考文献:
● https://iacmcolor.org/color-profile/paprika-paprika-oleoresin/
● Norazian M.H. et.al.,"Carotenoids of Capsicum Fruits: Pigment Profile and Health-Promoting Functional Attributes", Antioxidants, 8(10), 469(2019)
● Balakrishnan K.V. et.al.,"Studies in Oleoresins", Ph.D. thesis of Cochin University of Science and Technology, (1996)
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