ベニノキ種子

馴染みはないけど実はバターやチーズの補色で頻用

アナトー色素は、南米原産のベニノキ(Bixa orellana)の種子を覆う果皮から得られる赤色の色素で、古くから身体や食品の着色に用いてきました。16世紀にヨーロッパへ伝わり、バターやチーズの着色料として広く普及しました。今でも食品の着色の他にも香辛料や繊維の染色などにも用いられています。
※写真はベニノキの種子、この外側の果皮を使います。

1. 概要と化学構造

  • 起源:ベニノキ(Bixa orellana L.
  • 主成分:2種類のカロテノイド ビキシン(Bixin)、ノルビキシン(Norbixin)

主成分はビキシン(bixin)とノルビキシン(norbixin)の2種類で、いずれもアポカロテノイド(apo-carotenoid)系化合物に分類されます。これらは分子内に共役二重結合を多く持ち、鮮やかな橙〜黄橙色を呈します。それぞれの成分には以下の特徴があります。

    • ビキシン(bixin)
      分子式 C₂₅H₃₀O₄
      構造:長鎖の共役ポリエン骨格を持つメチルエステル体。
      性質:油溶性で水に不溶。主に油脂製品に用いられる。
    • ノルビキシン(norbixin):
      分子式 C₂₄H₂₈O₄
      構造:ビキシンのメチルエステル基が加水分解されて生成するジカルボン酸。
      性質:アルカリ塩(Na⁺またはK⁺塩)となると水溶性を示す。チーズ、バターなどの乳製品着色に多用。
  • 抽出方法による分類(Annatto A〜G)

アナトーは抽出溶媒や処理条件の違いにより、ビキシン/ノルビキシンの含有比が異なる複数タイプに分類されます。
JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)ではAnnatto B〜Gまでを規格化しています。

区分 主成分 抽出方法の概要 主な特性・利用状況
A ビキシン(~20%) 溶剤抽出 商業利用なし
B ビキシン(≥85%) 溶剤抽出+精製+結晶化 油溶性色素
C ノルビキシン(≥85%) 溶剤抽出→ケン化→酸沈殿→精製→乾燥粉末化 水溶性色素
D ビキシン(≥10%) 油脂抽出 油溶性色素
E ビキシン(≥25%) 冷アルカリ油脂抽出→酸沈殿→精製 中間的タイプ
F ノルビキシン(≥35%) 冷アルカリ油脂抽出→加水分解→酸沈殿→精製 水溶性色素
G ノルビキシン(≥15%) 冷アルカリ油脂抽出→加水分解→乾燥 水溶性色素

不溶性のビキシンをアルカリ下で抽出するとメチルエステルが加水分解されてノルビキシンとなります。このノルビキシンに塩をつける(カリウム塩又はナトリウム塩)と水溶性になりますが、日本では化学合成品として、指定添加物の「水溶性アナトー」として扱われ、規格化されています。

水溶性アナトーは欧米では「チーズカラー」と呼ばれ、古くからチーズ(チェダーチーズ、グロスターチーズ、レッドレスターチーズなど)やチーズ製品(アメリカンチーズ)、バターやマーガリンなどの乳製品の着色に用いられています。 

 

2. 色素の性質と安定性

  • 熱安定性:比較的強い
  • 光安定性:やや弱い
  • pH依存性:油溶性のビキシンはあまり影響を受けませんが、アルカリ可溶性のノルビキシンはpHにより溶解性及び色調が変わります。
    酸性域(pH4以下):ほぼ不溶/赤橙色
    中性域(pH6~8):溶解性中程度/橙~黄橙色
    アルカリ域(pH9~11):溶解性高い/黄橙色
  • 溶解性:
    水に不溶で油脂に可溶(ビキシン)
    アルカリ水に可溶、水・油にほぼ不溶(ノルビキシン)
    水に可溶(水溶性アナトー)
  • 用途:

    油溶性タイプ(ビキシン主体):マーガリン、バター、菓子、スナック、油脂加工品など
    水溶性タイプ(ノルビキシン主体):チーズ(チェダー、レッドレスターなど)や乳製品

3. 法規制・表示

  • 日本:既存添加物「アナトー色素(ビキシン)」「アナトー色素(ノルビキシン)」及び指定添加物として「水溶性アナトー」
    • 表示名称例:
      • アナトー色素(ビキシン、ノルビキシン):アナトー,アナトー色素,カロチノイド,カロチノイド色素,カロテノイド,カロテノイド色素 
      • 水溶性アナトー:ノルビキシンK,ノルビキシンNa、水溶性アナトー,アナトー,アナトー色素,カロチノイド,カロチノイド色
        素,カロテノイド,カロテノイド色素 
    • 使用制限:
      • 以下の食品には使用できません。こんぶ類、食肉、豆類、野菜類、わかめ類(加工品は除く)、鮮魚介類(鯨肉を除く)、茶、のり類
  • INS番号:160b Annatto extract、160b(i) Annatto extract(bixin-based)、160b(ii) Annatto extract(norbixin-based)
  • EU:E160b Annatto extract、E160b(i) Annatto bixin、E160b(ii) Annatto norbixin

海外では各国の着色料規制により使える食品や添加量が決められている場合が多いため、ここに記載があっても使えないことがあります。

参考文献:
● Giridhar P.,et.al.,"A Review on Annatto Dye Extraction, Analysis and Processing – A Food Technology Perspective",J. Sci. Res. Reports,3(2),327-348(2013)
● Scotter M., "The chemistry and analysis of annatto food colouring: a review", Food Additives & Contaminants:PartA, 26(8),1123-1145(2009)
厚生労働科学研究費補助金 既存添加物の品質向上に資する研究 令和3年度研究分担報告書


おことわり

本サイトに掲載している内容は、筆者の知識・経験および公開情報をもとに作成したものであり、できる限り正確な情報提供に努めていますが、その内容の正確性・信頼性・最新性を保証するものではありません。
本サイトで提供する情報は、あくまで一般的な情報共有を目的としたものであり、専門的な助言や指導に代わるものではありません。
本サイトの内容を利用・参考にしたことによって生じたいかなる損害・不利益についても、筆者は一切の責任を負いかねます。あらかじめご了承ください。

また、掲載内容は予告なく変更または削除することがあります。